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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)1251号 判決 1963年9月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡本共次郎の上告理由第一点について。

所論は、転貸許容の特約の存在を肯定した原審の事実認定は採証法則、経験則に違背すると主張する。しかし、原判決が、前所有者訴外清水ハルエの代理人清水キワにおいて、本件家屋を賃貸した当初から、賃借人訴外安ケ平仁太(被上告人小野三栄を除く被上告人三名の先代)が本件家屋の階下一一坪五合の部分を不特定の第三者に転貸することを暗黙に承諾していたものと認定したことは、その挙示する証拠によつて原審が認めた諸事情を綜合し、肯認できないわけではない。所論は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、排斥を免れない。

同第二点について。

所論は、所論のいわゆる概括的転貸許容の特約は賃貸借契約の本来的(実質的)事項でないから、その登記なくしては、家屋の新所有者に対抗できないと主張して、これと異る原判決の判断を攻撃する。しかし、借家法一条一項の規定の趣旨は、賃貸借の目的たる家屋の所有権を取得したる者が旧所有者たる賃貸人の地位を承継することを明らかにしているのであるから、それは当然に、旧所有者と賃借人間における賃貸借契約より生じたる一切の権利義務が、包括的に新所有者に承継せられる趣旨をも包含する法意である。右と同趣旨の原判決の判断は正当であり、所論は独自の見解であつて、採用できない。

同第三点について。

所論第一審第五回口頭弁論調書に、上告人の主張について「解約」という文字が使用されているからといつて、それだけで、所論のようにそれは「解約申入」の趣旨であつて、「合意解約」の趣旨でないと断定できる筋合いのものでない。

また、上告人が借家法三条の解約の申入による賃貸借の終了を主張したことは、記録上認められない。無断転貸を理由とする解除の主張に、当然に、解約の申入による賃貸借の終了の主張をも含んでいると解せられない。以上、所論はすべて排斥を免れない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤朔郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 長部謹吾)

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